定年延長問題

 2022(令和4)年度からの国家公務員の定年引上げに伴い、地方公務員の定年も、2023(令和5)年度から引き上げられます。具体的には、2023年度から段階的に(2年ごとに1歳ずつ)定年が引き上げられていき、2031(令和13)年度に完成する計画です(下図参照)。宮城県でも2022年度中に(予定では9月議会で)条例を制定/改正することになっています。

 しかし、単に定年年齢が引き上げられるだけで話は終わりません。これに伴って、いろいろな制度の変更があり、私たち公立高校の教員にも大きな影響があります(下図参照)。すべての教員が65歳まで安心して勤め続けられる職場になるのか、たいへん疑問です。

 宮城高教組は、宮教組や県職組と協同で(三者共闘として)、県当局や県教委当局と交渉を進めています。ここでは、その概要についてまとめました。

 

定年延長をめぐる交渉では、主として次のような点が論点になっています。

 

■論点1 「60歳になったら給与3割カット」なんて、ありえない!

 

 「定年延長」とは「継続雇用」のことです。退職後の「再雇用」ではありません。ところが県当局は、60歳に達した翌年度から、当分の間一律に「再雇用」並みに給与を3割カットする(7割水準にする)としています。

 その理由について、県当局は「国家公務員の制度を定めるにあたって民間企業を調査したら、再雇用の給与水準が平均7割だったから、宮城県もそれに合わせるのだ」と(地方自治を自ら否定する)説明をしています。つまり県当局も認める通り、「平均7割水準」は「再雇用」の場合(全体の約93%)の数字なのです。「継続雇用(定年延長)」の場合(全体の約7%)は給与カットはありません。つまり国や県は、約93%の民間企業で実施されている「再雇用による7割給与」を「定年延長=継続雇用」の場合に強引に当てはめようとしているのです。

 こんなことは許されるはずがありません。労働法で禁じられている「労働条件の不利益変更」に該当する恐れもあります。そこで私たち組合は「給与3割カットは撤回せよ、どうしても3割カットするなら業務負担も3割カットせよ(例えば週休3日にするとか)」と要求しています。しかし県当局はまったく冷淡です。

 いま60歳で定年退職した教員の多くが年金支給開始年齢まで「再任用」として働いていますが、給与は約57%に減額されています。でも仕事が43%軽減されているわけではありません。それでも「再任用」だからという理由で形式的な正当化はできるかも知れません。しかし「定年延長=継続雇用」となっても同じように給与3割カットを押し通すことには、まったく合理的理由がありません。

 このような不完全な制度設計では、たとえ形式的には定年が延長されても、実際には定年前に退職してしまう教員が予想以上に増える可能性があります。教員を確保できない学校がいくつも出てきて、混乱に陥るかも知れません。

 

公務員給与全体の賃下げを予定? ひいては日本経済の低迷に拍車

 県当局は、この「給与7割水準」は「当分の間」だと主張していますが、この点は意味深長です。これは、おそらく「65歳定年制が完成するタイミングで、60歳と61歳の給与額に大差がないように(最悪の場合「従来の7割水準」と同額になるように)昇給曲線を変更する =つまり公務員の生涯賃金は変えずに雇用継続できるようにする」趣旨ではないか、と考えられています(下図参照)。

 しかし、これが本当なら、今後、公務員の賃金は現状よりさらに低下することを意味します。多くの中小企業の賃金水準は公務員の賃金水準を参考にしている場合が多いので、公務員の賃下げは社会全体の賃下げにつながり、日本経済の低迷に拍車をかける結果となるでしょう。

■論点2 定年前再任用短時間勤務制は機能するのか?

 

希望者全員任用は可能?

 県当局は、「60歳に達した後、定年年齢に達する前に退職した教員が、短時間勤務の再任用(任期は定年年齢まで)を希望した場合は、原則として全員任用する」と言っていますが、本当にそんなことができるのでしょうか。

 現在、60歳で定年退職した教員は、「フルタイム勤務の再任用」と「短時間勤務の再任用」を選べる仕組になっており、新たに設置される「定年前再任用短時間勤務制」は、現行の「短時間勤務の再任用」に相当します。しかし現在、短時間勤務の再任用は、希望者の約半数しか任用されていません。フルタイム勤務の再任用でさえ全員が任用されていません。組合は、県当局に対して、このような現状で、来年度から「原則として希望者全員を任用」することができるのか、どのような方法を考えているのか、問いただしていますが、県当局は明確な回答を避けています。11月ごろ「退職予定者の意向調査をして、希望者の人数を見てから検討する」と弁明していますが、そんな呑気なことで大丈夫なのでしょうか。

 

定数外で任用は可能?

 また、定年前再任用短時間勤務制による再任用の場合、制度設計上は教職員「定数外」とする(=フルタイム勤務職員で満たすべき人数に含めない)ことになっています。その通りに実施されるのであれば、他のフルタイム教員の業務軽減につながることが期待できますが、現実には「定数崩し」と言って、「定数内」配置をしている例が多くあります。そのため例えば保健室の養護教諭が「定年前再任用短時間勤務」となった場合、保健室に養護教諭が常駐しない学校がでてくる危険性もあります。

 組合は、そのようなことにならないよう、「定年前再任用短時間勤務」の定数外配置を徹底するよう、またそれを担保するための採用計画を示すよう要求していますが、県当局は明確な回答を避けています。

 

■論点3 役職定年者が優遇されることはないのか?

 県当局は、「60歳に達した後、管理職は役職定年で一般職員になる」と説明していますが、「校長」や「教頭」を経験してきた者が「教諭」にもどったとき、他の教諭と同様にクラス担任や部活動顧問をするのでしょうか。

 組合は、「優遇しない」といえる具体的根拠を示すように要求していますが、県当局は「優遇する旨の規定はない」と答えるにとどまっており、積極的に「優遇しない」とは明言していません。

 

■論点4 2年に1度しか退職者がない状態で、毎年新規採用できるのか?

 「2年ごとに1歳ずつ定年年齢を引き上げる」ということは、定年退職者のいる年といない年が交互にやってくることになります。しかし教員採用試験は毎年実施するはずですから、年度によって新規採用数に大幅な変動があっては、教員採用試験を受験する人たちにも影響があります。総務省は「新規採用数の平準化」を通知していますが、本当にそのようなことができるのでしょうか。

 組合は、未配置防止のため(=本来フルタイムで配置すべき職員がいないという事態を防ぐため)にも、県独自で定数以上の採任用をすべきと要求しています。